今回の冬展のテーマは「あかちゃん」。ちひろは、駆け出しの画家であったころから、子どもやあかちゃんが好きで生涯描き続けました。一児の母でもあった彼女だからこそ表現できる、あかちゃんのふっくらした手足や柔らかな質感をお楽しみください♪
その辺に赤ちゃんなんかいると自分のひざの上に置いておきたい。親はどうしてもさわらずにはいられないものじゃないかしら。私はさわって育てた。小さい子どもがきゅっとさわるでしょ。あの握力の強さはとてもうれしいですね。あんなぽちゃぽちゃの手からあの強さが出てくるんですから。そういう動きは、ただ観察してスケッチだけしていても描けない。
いわさきちひろ
「教育評論」日本教職員組合(1972年11月号)
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いわさきちひろは駆け出しの画家であったころから子どもやあかちゃんが好きで、生涯描き続けました。1960年代には育児書のカットも多く手がけ、取材のために幼稚園を訪れてスケッチを重ねています。これらの仕事でちひろは、あかちゃんの月齢による違いも正確に描き分けました。また、後期の代表作にみられる淡い色彩で描かれたあかちゃんの姿は、ふっくらとした手足や柔らかな肌の質感までもが伝わってくるようです。「私はさわって育てた」と語るように、画家としての観察眼に加え、一児の母としての経験は作品に表れています。
「子どもは全部が未来だし……*」とも語ったちひろは、愛らしい姿だけではなく、子どもの持つ生命力そのものに惹かれていたのでしょう。病床で描いた絶筆もあかちゃんの作品でした。
本展では、弟の誕生を待ちわびる女の子のようすを描いた『あかちゃんのくるひ』、ミリオンセラーのあかちゃんの絵本シリーズ『おふろでちゃぷちゃぷ』、『もしもしおでんわ』など、あかちゃんにまつわる作品を中心に紹介します。いわさきちひろの没後50年を迎える今、ちひろが慈しむように描き続けた作品の数々をご覧ください。
*「教育評論」日本教職員組合(1972年11月号)